甲野善紀先生から古武術の考え方を学ぶ|Audible全13作品を聞いてみた

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古武術研究者の甲野善紀先生をご存じでしょうか。

甲野先生は、巨人の桑田真澄投手を指導し、2002年の最優秀防御率獲得を支えた人物です。スポーツ選手だけでなく、介護や楽器演奏、演劇など、さまざまな分野の人に体の使い方を伝えてきました。

甲野善紀先生の主な実績
  • 巨人の桑田真澄投手を指導。桑田投手は2002年に最優秀防御率を獲得
  • 桐朋高校バスケットボール部が、古武術を取り入れて全国大会ベスト16に
  • 古武術を取り入れた卓球の平野早矢香選手は、全日本選手権で2年連続優勝。のちに全日本で通算5度優勝し、ロンドン五輪の団体戦で銀メダル獲得に貢献
  • 女子バスケットボール日本代表の濱口典子選手が、甲野先生の指導で復活。のちに所属チームのリーグ4連覇の立役者となり、2004年のアテネ五輪にも出場
  • 日本古来の「ナンバ歩き」を世に広める
  • 介護、楽器演奏、演劇の分野でも身体の使い方を指導。宇宙飛行士の野口聡一さんも指導を受ける
  • 神戸女学院大学の客員教授を務める

僕はもともと合気道を学んでおり、その中で甲野先生のAudible作品『合気道との出会いと別れ』に出会いました。

そこから甲野先生の考え方に惹かれ、YouTubeで技を見るだけでなく、Audibleで聞ける13作品をすべて聞きました。

この記事では、Audibleで聞ける甲野先生の13作品を、テーマ別に紹介します。

こんな人へオススメ
  • 甲野善紀先生がどんな人か知りたい
  • 甲野善紀先生の出会ってきた人と逸話を知りたい
  • 甲野善紀先生の考えをもっと深く知りたい
目次

甲野善紀先生とは?

甲野善紀先生はどの武道団体にも属さず、「武術研究者」という前例のない道を自分で切り拓いてきた人です。

2002年、元巨人の桑田真澄投手が、古武術を応用したトレーニングを取り入れたことが功を奏し、自身15年ぶりとなる最優秀防御率のタイトルを獲得しました。これをきっかけに、スポーツ界を中心に「古武術を取り入れよう」というブームが起きました。

このとき、桑田投手を指導していたのが、甲野善紀先生です。

公式Youtubeチャンネルにて、古武術について詳しく解説されているので是非見てみてください。

「甲野善紀オンライン」youtube版 Yoshinori Kono online Channel

「筋肉を鍛える」「ボールをよく見る」といった、僕らが当たり前だと思ってきた常識とは逆の話も多いので、最初は戸惑うかもしれません……

Audibleで聞ける甲野善紀の13作品

Youtubeでは、技の実演が中心ですが、Audibleでは先生がなぜ武術の道に入ったのか、誰と出会いどんな影響を受けたのか語られています。宮崎駿さんや養老孟司さんとも面識があったのが個人的に驚きでした。

紹介する13作品は、すべてAudibleのプレミアムプランの聴き放題対象です。会員なら、追加料金なしで全部聴くことができます。

また、13作品のうち12作品は7分〜1時間ほどと短めなので、通勤や家事のすきま時間にぴったりです。

No.作品名テーマ再生時間
1合気道との出会いと別れ過去と出会い40分
2すべてのことに時期がある——養老孟司先生との出会い24分
3宮崎駿監督との出会い25分
4多くの人の思いを代弁する詩人・銀色夏生女史12分
5私が現役であることを思い知った夜20分
6達成感の得られない仕事とどう向き合うか考え方12分
7どこまでを自力とし、どこまでを他力とするか12分
8「運命論は修正可能である」という安易な言説への違和感12分
9「たとえ」の功罪7分
10『東京ブギウギと鈴木大拙』で見えてきたこと1時間2分
11剣術は甘くない体の使い方25分
12現代のゴルフ理論は根本から大間違い14分
13「筋肉」よりも「骨」を使え!4時間28分

テーマ別に13作品を紹介

ここからは、13作品を3つのテーマに分けて紹介します。

甲野先生の過去と人との出会いがわかる5作品

甲野先生がどんな道を歩み、誰と出会ってきたのかがわかる作品です。甲野先生の人柄がわかります。

1. 合気道との出会いと別れ(再生時間:40分)

1971年、若き日の甲野先生が、武術の道に入っていく話です。

甲野先生が合気道の道場に入門し、ある出来事をきっかけに師匠のもとを去るまでの話です。

小説やドラマなら、師弟の物語はハッピーエンドで終わることが多いですよね。でも、この作品はそうなりません。語られるのは、甲野先生が若き日に実際に経験した、つらい出来事です。

1〜2年ほど、当時の師匠のもとで稽古に励んできたのに、たった1日の「ある出来事」で、尊敬していた師匠像が崩れてしまいました。そして甲野先生は、合気道と師匠に別れを告げることになります。

まだ20代前半だった甲野先生の落胆を思うと、胸が痛みました……。

それでも、この別れがあったからこそ、どの団体にも属さない今の甲野先生がある。そう思うと、甲野先生の原点を知るうえで外せない作品です。

2. すべてのことに時期がある——養老孟司先生との出会い(再生時間:24分)

1992年、甲野先生が43歳の頃、のちに『バカの壁』でベストセラー作家となる東京大学名誉教授・養老孟司さんとの出会いの話です。

甲野先生と養老さんが対談したのは、わずか1時間ほど。ところがその数日後、養老さんは「武道について、初めて目の覚めるような思いをしました」と語り、これまで武道を知らなかったことを「不覚」だったとまで言ったそうです。

東大の名誉教授ほどの人が、たった1時間の対談でここまで言い切る。それだけ甲野先生の話に衝撃を受けたのだと思います。

この出会いをきっかけに、2人の共著は2冊も出版されました。一流の人が、一流の人を認める瞬間をのぞけるような作品です。

3. 宮崎駿監督との出会い(再生時間:25分)

『もののけ姫』に大きな衝撃を受けた甲野先生が語る、宮崎駿監督とのつながりの話です。

1997年、48歳の甲野先生は、息子さんと映画館で『もののけ姫』を観ました。その衝撃は大きく、上映が終わっても座席から立ち上がれなかったそうです。

それから2年後の1999年、甲野先生は宮崎駿監督と出会い、1時間ほど言葉を交わします。当時の甲野先生にとって、宮崎監督は「一番会いたかった人」でした。

実際に会ってみると、宮崎監督は想像していた通りの人。むしろ、出来すぎなくらいだったと言います。そのとき甲野先生の胸に湧いたのは、喜びとも驚きとも言い切れない、なんとも言えない感情でした。

憧れの人に会えたとき、人はどんな気持ちになるのか。武術研究者の甲野先生の、ひとりの人間としての素顔が見える作品です。

4. 多くの人の思いを代弁する詩人・銀色夏生女史(再生時間:12分)

甲野先生が、詩人・銀色夏生さんとのトークイベントの一日を綴った話です。

銀色さんは、ご自身で「詩を書いていると思ったことはない」と語っています。

これを受けて甲野先生は、感覚のままにメッセージを送ることは人間が何かを表現するうえで、最も本質的なもので大事なもののように思う、と語っています。

僕自身、ブログを書いていると、「科学的な根拠はどうか?」とか、「前例はあるか?」といった声が気になることがあります。でも、そうした声に振り回されず、自分の感覚を大切にして書き記していきたい。そう背中を押された気がします。

僕は、このオーディオブックを聴くまで、銀色夏生さんのことを知りませんでした。気になって調べてみると、『私たちは人生に翻弄されるただの葉っぱなんかではない』という本に出会いました。

どこか生きづらさを感じていた僕にとって、これ以上ないタイトルでした。もし今、同じように生きづらさを抱えている人がいたら、この本はきっと心の支えになってくれるはずです。

5. 私が現役であることを思い知った夜(再生時間:20分)

新潮社主催の新潮ドキュメント賞などの授賞式に出席した、ある夜の話です。

世の中には、合気道や古武術を「八百長だ」と見る空気があります。甲野先生は、その見方を変えようと動く人がいないことに、疑問を抱いていました。

会場に集まった選考委員や北大柔道部の出身者たちにとって、武道はすでに青春の思い出になっている。甲野先生はそう感じ、だからこそ自分はまだまだ現役なのだと実感します。

60代を迎えても、なお現役であり続ける。生涯現役って、こんなにかっこいいのかと思わされました。

ただ、現役であり続けることは、孤独でもあります。甲野先生はその孤独を、精神科医の名越康文さんに打ち明けました。返ってきたのは「大乗は道化だ」という一言。この言葉に、甲野先生は救われたそうです。

たった一言で甲野先生を救ってしまう名越先生も、またすごい人です。現役であり続ける人の、強さと孤独の両方が見える作品です。

考え方がわかる5作品

仕事や運命、宗教や禅について、甲野先生がどう考えているのかがわかる作品です。仕事や生き方に悩んでいる人に刺さるテーマです。

6. 達成感の得られない仕事とどう向き合うか(再生時間:12分)

やりがいや達成感を持ちにくい仕事が増えた現代について考える話です。

登場するのは、金融システムの保守をしている人。誰も全体像を解読できないプログラムがシステムを妨害し、不具合が出るたびに直すだけの毎日です。情熱を持てば持つほど、心も体も打ちのめされてしまう仕事でした。

こうした仕事にやりがいを持つのは難しい。そこで甲野先生がすすめるのが、仕事の外に稽古や趣味を持つことです。実際その人は、武術の稽古を続けることで、拷問のような仕事にも押しつぶされない強さを身につけたそうです。

会社員として働く僕にとっても、他人事とは思えない話でした。仕事にやりがいを見いだせず悩んでいる人に、ぜひ聴いてほしい12分です。

7. どこまでを自力とし、どこまでを他力とするか(再生時間:12分)

『歎異抄』の「悪人正機説」を手がかりに、自力と他力について考える話です。

甲野先生は、悪人とは悪をせざるを得ない巡り合わせに生まれた人であり、だからこそ救いが必要なのではないか、と読み解いています。

そのうえで語られるのが、人はその瞬間瞬間を生きることしかできないということ。自分の力で何とかしようとするだけでなく、瞬間瞬間を生きる中で、自分を超えた何かへと向かっていく。甲野先生は、そのあり方を自らの身で体現しようとしているのだと感じました。

「頑張れば何とかなる」だけでは割り切れない人生に、ひとつの向き合い方を示してくれる作品です。

8. 「運命論は修正可能である」という安易な言説への違和感(再生時間:12分)

「運命は努力で変えられる」という考え方に、甲野先生が違和感を覚える理由を綴っています。

ある巨大宗教団体が説く「運命は、人間の努力次第で修正できる」という考え方に、甲野先生が真っ向から向き合った話です。

甲野先生は、「努力するかどうかも、本人の運命で決まっているのでは?」「そもそも、そういう努力はすべきなのか?」と、片っ端から質問を投げかけます。けれど納得できる答えは返ってこず、最後には「入信しなくてもいい」と帰されてしまうのです。先生の疑問の投げかけのシーンが、とにかくおもしろい。

わかったふりをせず、納得できるまで問い続ける甲野先生らしさが、たった12分に詰まっています。

私が現役であることを思い知った夜

9. 「たとえ」の功罪(再生時間:7分)

説明に便利な「たとえ」が、都合よく使われることの危うさについての話です。

「たとえ」には「例え」と「譬え」の2つの漢字があり、甲野先生は本来「譬え」の字を使いたいと話しています。音声だけでは字の違いがわからないので、ここは聴くときに少し注意が必要です。

「譬え」を調べてみると、物事を正面から言わずに、別の物事に託して言う、つまりたとえて諭すという意味があるようです。

甲野先生は、「たとえ」は立場や状況によって都合よく使い分けられてしまうと語っています。だからこそ、「たとえ」を使うときは、相手の立場や状況をしっかり考えないと、間違った使い方になってしまいます。

「たとえ」を使うときは、きちんと伝わるかを意識しないと思わぬ誤解を生むと気づかされます。たった7分で、自分の「伝え方」を見直せる作品です。

10. 『東京ブギウギと鈴木大拙』で見えてきたこと(再生時間:1時間2分)

国際日本文化研究センターの山田奨治教授が書いた『東京ブギウギと鈴木大拙』をきっかけにした話です。禅の大家・鈴木大拙の「父親としての顔」が見えます。

大拙には、アラン(鈴木勝)という養子の息子がいました。3度の結婚・離婚を繰り返し、世間からは「悪童」と見られていたようです。そんな息子に対して、大拙は父親として、一人前の大人になった彼に何も言えなかったのかもしれない、と語られています。

実はこの鈴木勝こそ、笠置シヅ子の大ヒット曲「東京ブギウギ」の作詞者です。アサヒビール「クリアアサヒ」のCMで流れている替え歌「クリアブギウギ」の原曲、と言えばピンとくる人も多いのではないでしょうか。作品では、鈴木勝が公式に作詞者とされている、その裏側についても聴けます。

「クリアアサヒ」のCM
笠置シヅ子さんが歌う原曲の東京ブギウギ

大拙の妻はアメリカ人でした。昭和の日本の一般的な両親とは違い、子どもの個性を尊重しなければならない、という考えも少なからずあったのではないかと思います。

偉大な思想家でも、子育てには迷う。同じ父親として、大拙がぐっと身近に感じられる作品です。

体の使い方・武術がわかる3作品

Youtubeで見た技の背景にある、甲野先生の武術観がわかる作品です。

11. 剣術は甘くない(再生時間:25分)

剣術を習っていない人が意外な強さを見せることから、真剣勝負の怖さを考える話です。

全国で講習会を開く甲野先生が、ときどき出会うという「意表をつく相手」の話です。剣道や古流剣術を習ったわけでもなく、自己流で稽古してきた人が、思いもよらない間合いで打ち込んでくることがあるそうです。

作品では、坂本龍馬を斬ったことで知られる剣客が「免許を持つ者より、素人を斬るほうが難しい」と言い残した話も紹介されます。型を身につけた相手は動きが読める。でも、型を知らない相手は読めない。だから素人をあなどってはいけない、ということです。

経験を積むほど、人は「わかったつもり」になりがちです。剣術の話でありながら、常識にとらわれることの怖さを考えさせられる作品です。

12. 現代のゴルフ理論は根本から大間違い(再生時間:14分)

忙しさの中でも続く技の気づきと、ゴルフの常識への疑問に関する話です。

甲野先生は、ゴルフが上手くなるコツをよく聞かれるそうです。ただ、答える内容が常識とまったく違うので、聞いた人が困惑してしまうことも多いのだとか。

たとえば、「ボールを見て打つ」という基本中の基本。甲野先生は、そもそも目標があるからそこに向かって打つのであって、ボールそのものを見ていては目標に当てられないのではないか、と疑問を投げかけます。ボールを見させないようにすることこそ、本来のあり方ではないか、と。

話の中では、伝説のゴルファー、ベン・ホーガンも登場します。甲野先生によると、ホーガンのスイングは腰に負担をかけず、きれいに振り抜けているそうです。

ゴルフをする人は、ベン・ホーガンのスイングを参考にすると上達のヒントが見つかるかもしれません。「当たり前」を疑うことから上達が始まると感じさせてくれる14分です。

13. 「筋肉」よりも「骨」を使え!(再生時間:4時間28分)

武術研究の甲野先生と、「骨ストレッチ」で知られるスポーツトレーナーの松村卓さんによる対談です。タイトルの通り、筋肉の力に頼るのではなく、骨をうまく使って体を動かすという発想が語られています。

「鍛えて筋肉をつけるほど強くなる」という常識とは逆の考え方なので、スポーツをしている人はもちろん、体の疲れやすさに悩んでいる人にも新鮮に感じられるはずです。

ただ、この作品はデジタルボイス(機械音声)の朗読です。人の声による朗読と比べると抑揚が少なく、4時間28分と長いこともあって、聴きづらさを感じる人もいるかもしれません。内容をじっくり理解したい人は、本で読むことをオススメします。

まとめ

今回の記事では、甲野善紀先生がどんな人かと、Audibleで聴ける13作品を紹介しました。

甲野先生は、どの団体にも属さず、「武術研究者」という前例のない道を切り拓いてきた人です。桑田真澄投手をはじめとするアスリート、養老孟司さんのような学者など、さまざまな分野の一流の人たちが、甲野先生の考え方に影響を受けてきました。

Audibleの13作品では、そんな甲野先生の歩みや出会い、ものの考え方にふれることができます。技の動画だけではわからない、甲野先生の人柄を知るにはぴったりの作品です。

短いものは1本7分ほどなので、通勤や家事のすきま時間にも気軽に聴けます。まずは気になるテーマの作品を1本、聴いてみてください。

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