その日は朝から、「おいしいね」と言えば「おいしくない」、
「たのしいね」と言えば「たのしくない」と、何を言っても逆が返ってきました。
そして3歳の息子は、小学生の娘が頑張って塗った塗り絵を破ってしまいました。
僕が体ごと止めると、息子は床に転がって大泣き。
でもそれを境に、娘への邪魔はぐっと減りました。
イヤイヤ期は優しい言葉で言って聞かせるのがいい、とよく言われます。でも、何を言っても逆が返ってくる日に、それで本当に止まるでしょうか。
体で止めるなんて、やってはいけないことなんじゃないか。そう迷って、手が止まってしまうお父さんもいると思います。
ほんの10秒「止めた」ことで何が変わったのか、僕の体験を書いていきます。
「優しい言葉で」が届かない日もある
イヤイヤ期の子どもには、優しい言葉で言って聞かせましょう。育児の場面では、よく言われることです。たしかにそれが理想ですし、できるならそうしたいと僕も思っています。
ただ、実際の子育ての現場は、そう簡単ではありません。親が疲れ切っている日もあれば、子どもが何を言っても逆を返してくる日もあります。親だって人間なので、気持ちがあります。優しい言葉をかけ続けられない日があっても、おかしくないのではないでしょうか。
どれだけ言葉を尽くしても、届かない日はたしかにあります。
唾を飛ばす3歳に、何時間も言って聞かせますか
その日の息子は、朝からずっとあまのじゃくでした。僕や妻が何か言えば、全部ひっくり返して返してきます。3歳のイヤイヤ期だとわかってはいても、一日中これが続くと、こちらの気持ちも少しずつ削られていきました。
そのうち矛先は、娘にも向かいました。
遊んでいるおもちゃを取り上げ、何かを始めると邪魔をする。言葉で注意すると、今度は娘や周りに唾を飛ばしはじめる。とにかく全部気に入らなかったようです。
そして最後に、娘が頑張って塗っていた塗り絵を破ってしまいました。
ここで「どうして破ったの?」「お姉ちゃんはどんな気持ちかな?」と言って聞かせたとしても、返ってくるのは「ちがう」「やだ」、そして唾です。これを2時間、3時間、ときには5時間、6時間と続けるのは、さすがに無理があるのではないでしょうか。
そんなことを続けていたら、先に倒れるのはたぶん親のほうです。あのとき止めなかったら、妻にも大きな負担がかかっていたはずですし、次の日も、その次の日も同じことが続いていたかもしれません。毎日これが続けば、親は育児ノイローゼや燃え尽きに近づいていきます。長い目で見て本当に気をつけるべきなのは、むしろそこだと思っています。
イヤイヤ期は、何でも「イヤ」と言う時期です。「イヤ」という気持ちそのものは、大事にしてあげていいと思います。でも、人に迷惑をかけることは、イヤイヤ期であっても止めなければいけません。唾を飛ばしている子を、言葉だけで何時間も説得し続けることが、本当に子どものためになるでしょうか。
10秒止めて、15分泣いて、言葉が届いた
僕は息子を体ごと押さえて止めました。押さえていたのは、10秒か20秒ほどです。息子は、力では勝てないとわかったのか、大声で泣き出しました。
泣いている間まで押さえる必要はないので、すぐに離しました。息子はそのまま一人で床に転がって、15分ほど泣き続けていました。
泣き止ませてくれたのは妻でした。妻は息子を責めることなく、

お姉ちゃん、いやな気持ちになっちゃったからね
と、やさしく声をかけていました。
不思議なことに、そこからは話がちゃんと届くようになりました。あれだけ全部逆を言っていたあまのじゃくが、すっとなくなっていました。
僕が止めて、妻が受け止める。狙ってやった役割分担ではありませんでしたが、止めるのは父、受け止めるのは母という形が、うまくかみ合った日でした。
止めるのは、叩くこと(体罰)ではない
誤解のないように、はっきり書いておきます。
しつけのためであっても、子どもを叩いたり、痛みを与えたりすることは法律で禁止されています(※1)。
ただ、飛び出しそうな子の手をつかむ、きょうだいに手を出そうとしている子を止めるといった、子どもを守るためやほかの人に害が及ぶのを防ぐための行動は、それとは区別されているようです(※2)。
- 叩かない、痛みを与えない
- 止まったら、すぐ離す
- 止める以上の力を使わない
体を使うのは、あくまで止めるところまでです。
そこを越えて押さえ続けたり、痛みを与えたりすれば、それは「止める」ではなく「罰」になってしまいます。
その日から、邪魔をしなくなった
その日から、息子が娘の邪魔をすることは、ぐっと減りました。15分泣いたことと引きかえに、毎日続いていたかもしれないあまのじゃくが止まりました。
もちろん、それでイヤイヤ期が終わったわけではありません。あまのじゃくな日は、これからもやってくると思います。それでも、あの日体で止めてダメの線を見せたことで、自分がしていたことはダメだったと、息子なりに理解したのだと思います。
今でも、ダメなことはダメと伝わっているように見えます。言葉で100回言うより、一度体で止められたほうが、境界線ははっきり伝わるのではないでしょうか。
息子を止めたあの瞬間は、娘にとっても意味があったと思います。大事な塗り絵を破られて悲しかったとき、お父さんがすぐに間に入ってくれた。悪いことをしたら、お父さんがちゃんと止めてくれる。そう思える経験は、娘の安心にもつながったのではないでしょうか。
イヤイヤ期の子どもに、全部を言って聞かせなくてもいいと僕は思います。言葉が届かない日は、体で止めてもいい。ただしそれは止めるためであって、罰のためではありません。
家の中で誰かが傷ついたり、大事なものが壊されたりしたとき、迷わず止めに入る。それは、家庭の安心と安全を守るお父さんの仕事だと思っています。止めるための線さえ守っていれば、お父さんはもう、止めることをためらわなくていいと思います。
※1 2022年12月の民法改正で、親の「懲戒権」の規定が削除され、親は子どもに体罰など心身の健全な発達に有害な言動をしてはならないと定められました(民法821条)。
※2 厚生労働省「体罰等によらない子育てのために」では、罰を目的としない子どもを保護するための行為や、第三者への被害を制止する行為は体罰に該当しないとしています。


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